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黒田博子のWorld Publishers Report

本を出版したい。その夢をかなえるには・・・アメリカの場合(1)

投稿日時:2009/09/30(水) 12:57

自分の書いた原稿が出版され書店の店頭に並ぶ。文章を書くことが好きな人が夢見る光景です。しかしその実現には果てしない道のりがあります。本ができるまでのしくみは国によって様々ですが、アメリカの事情を少し紹介してみたいと思います。 

 

アメリカ合衆国にはいったいどのぐらいの出版社が存在するのでしょうか。The Association of American Publishers(米国出版界の総元締め。以下AAP)に登録されているだけでも2772社。その数1万を超えるというデータもあるぐらいです。その大半がニューヨークに集中しています。この10数年で、かつては独立した出版社であったところが、統廃合を経て、いずれかの大きな総合出版グループの傘下に入ってしまったという状況のようです。Random House, Simon&Schuster,Penguin, HarperCollins, Time Warnerといった巨大グループです。そうなると、自分の書いた原稿がいったいどの出版社に向いているのか、どの出版社の編集者なら興味をもってくれるのかを知るのが難しくなります。
 

 出版社の側はどうでしょうか。ある資料によると、年間300万タイトル以上の原稿がニューヨーク市内にある出版社に届けられるそうです。その内出版されるのは12万タイトルほど。たった4%しか日の目をみることがないということになります。日々送り届けられる膨大な量の原稿の中から、売れる可能性を秘めたものを選び出す作業をしなければならない編集者の苦労は並大抵ではありません。限られた時間を有効に使って将来のベストセラーに到達するためには、ある程度の水準以上の作品だけに目を通すことを望むのも当然です。
 

そこでliterary agentが登場するわけです。著者の代理人として出版社に原稿を売り込むのが彼らの仕事です。アメリカには現在、AAP(上述)に登録されているだけでも424社のエージェントが存在します。その規模や形態は様々で、大規模なものは文化芸術全般を扱うところ(俳優などタレントのエージェント業務も含む)がその一部門として本を取り扱っている場合もある一方で、ひとりで、時には自宅をオフィスにしてエージェント業を行っているというケースもあります。多くの場合、2,3人のスタッフでエージェント会社をやっているようです。
 

エージェントは送りこまれる作品に目を通し、大きな可能性を感じた場合には著者に連絡をして了解をとった上でその作品に相応しい出版社の編集者に売り込みを始めます。1社に限定して売り込む場合も、複数社に紹介して条件を競わせる場合もあり、これはエージェントの判断と裁量に任されます。作品にとってより良い方法を知っているのは彼らだからです。
 

すべての作品がエージェントに持ち込まれた段階で完成度の高いものとは限りません。「これはおもしろい。でも改良の余地がある。」と判断した場合には、著者と話し合って書き直しを繰り返し、より良いもの、編集者によりアピールするものを作り上げていく手伝いをするのもエージェントの仕事です。アメリカの出版界では編集者だった人が転職してエージェントになったり、その逆のケースもよくあります。編集の力を兼ね備えたエージェントも多いわけです。
 

このように書き手と出版社をつなぐ役割を果たすエージェントは、アメリカの出版界にとってなくてはならない存在です。出版社にとっては、エージェント経由で届いた原稿はスクリーニングを通ってきたものなのである程度の水準を期待でき、膨大な原稿と格闘する手間を省くことができます。また出版界に人脈もなく、業界の知識もない一般の書き手にとっては、自分の作品の行くべき場所への道案内をしてくれるエージェントのサポートは貴重であり、本の出版という夢を実現させる第一歩となるわけです。
 

アメリカの出版社のウェブサイトを見ると、その片隅にSubmission GuidelinesあるいはSubmission Policyといった項目があります。そこをクリックすると、大抵の場合、「弊社では直接持ち込まれた原稿やプロポーザルをお受けしていません。エージェント経由での紹介を強く希望します。エージェントをお探しの場合は下記のようなウェブサイトや資料をご参照ください。」と書かれているでしょう。
 

次回は、書き手がエージェントにアプローチする場合、何を用意すればいいのか。プロポーザルとは何かについてご紹介したいと思います。 

 

プロフィール
 

黒田博子
 

上智大学外国語学部英語学科卒業。University of California, Santa Cruzにおいて教育学修士号取得。翻訳権エージェントを経て、現在バベルプレスにて版権業務を担当。

 

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