日本語 English 大きくする 標準 小さくする
  • Top
  • ブログ
  • 本を出版したい。その夢をかなえるには・・・アメリカの場合(2)

黒田博子のWorld Publishers Report

本を出版したい。その夢をかなえるには・・・アメリカの場合(2)

投稿日時:2009/10/07(水) 10:00

前回のコラムの中で、アメリカにおけるliterary agentの役割について触れました。自分の本の出版を願う著者は、彼らエージェントたちにいったいどのようにアプローチすれば良いのでしょうか。無名の著者、初めて本を書いた人、あるいはこれから書きたいと思っている人の場合について考えてみましょう。
 

特定のエージェントとのつながりのない初心者の書き手は、書いたものをいったいどこに持ち込めばいいのかがわからず途方にくれるでしょう。そんな時にまず役に立つのは出版関連の組織年鑑のようなものです。一例としてはWriters Digest Booksが出しているGuide to Literary Agentsという資料があります。2009年の最新版にはアメリカのみならず世界800社以上のliterary agentの情報が載せられており、さらに親切なことに、エージェントにアプローチする時の注意点なども書かれています。連絡先や取り扱う分野などを参考にしながら、自分の作品の送り先としてどこが相応しいのかについて、大まかなリストを作るのに役立つでしょう。
 

年鑑で得た情報をもとに、次は個々のエージェントのウェブサイトを当たります。時間のかかる作業ですが、それぞれのエージェントの特色がよくわかります。エージェント会社の歴史、クライアント著者、著名な賞をとった作品のリスト、これから出版される本の紹介とバックリスト、所属エージェントの紹介、外国語翻訳権の情報などがあり、最後に必ず”Submissions”という項目をみつけることができるでしょう。
 

“Submissions”では、どのような方法で作品を受け付けているかが説明されています。日々舞い込む、捌ききれないほどの作品の交通整理をしたいために、エージェントの側で設けている方針があり、著者はそれに従って自分の本を売り込むことを期待されています。いきなり書いた原稿をどさっと送るのは好まれません。多くのエージェントが願うスタイルは次のようなものです。まずは作品と著者についてわかる簡潔な情報を送ります。一般に”query letter”と呼ばれるものです。ここでは作品の概要と、それがいかにユニークで魅力的な内容であるかについて、2ページ位にまとめて説明します。ノンフィクションの場合は、著者がその分野でどれだけの実績があるかを証明する何かが追加で必要になります。
 

2ページというコンパクトな文章でいかにエージェントを引き付けられるかがポイントとなります。至難の業とも思えますが、書くことが仕事であり、書いた文章でゆくゆくは出版社、そして読者の心を捉えなければならないので、当然といえば当然の要求かもしれません。この第一関門を突破すると、エージェントからもっと詳しいものを要求されます。「部分原稿を送ってください」とか、「プロポーザルを送ってください」という話に進めばしめたものです。query letter送付後、早ければ3,4週間で何らかの返事があります。大手のエージェントで扱う件数の多いところは、6週間ぐらいと設定している場合もあります。またquery letterでワンクッションおくのではなく、いきなりproposal を送ってしまって良い場合もあります。各エージェントのsubmissions欄で方針を確認する必要があるでしょう。
  

ではproposal とは何かというと、これは作品がどのようなものかを伝える提案書を意味します。アメリカでの出版を考える場合には、まずこのproposalをきちっと用意するのが必要絶対条件です。その長さは10ページぐらいから100ページ以上に及ぶ場合もあります。構成は次のようなものが一般的です:

 

送り状
本の概略説明
目次
各章の概略 
サンプルチャプター(1章分)
マーケティング情報(対象読者層は?セールスポイントは何か。類書と比べてどこがユニークか。)
著者略歴(前著があればそのリストを含む)

 

エージェントの心を動かすquery letter、またはproposalを用意するのが重要ですが、最終的には書き手がどのような文章を書く人なのかで決まると言えます。テーマや切り口の斬新さも問われるノンフィクション、ストーリー展開のおもしろさが要求されるフィクションというふうに、ジャンルによって多少の違いはありますが、結局はその本がいかに”page-turner”(読みだしたらやめられない本)であるか、そうなる可能性を秘めているかをエージェントは見るのです。その為に言うまでもなく部分原稿の完成度も大切でしょう。
 

このproposalをもとに、エージェントは出版社に売り込みをかけ、国際的に通用すると思えば、海外の出版社に対してその翻訳権のセールスに挑みます。上記では初心者の書き手を想定して書きましたが、既に著作があったり、売れっ子の著者の場合は事情が全く違ってきます。ノンフィクションであれば、ノーベル賞受賞者クラスの第一線の研究者の場合も同様でしょう。proposalがたったの3行で、「私は今度こういう本を書こうと思う」で終わっている。それでもproposalとして充分成立してしまい、6桁台(ドル)、7桁台の版権料が売買されてしまうのです。地道な作業とスリリングな展開を併せ持っているのがエージェントの世界かもしれません。
 

プロフィール

 

黒田博子 

上智大学外国語学部英語学科卒業。University of California, Santa Cruzにおいて教育学修士号取得。翻訳権エージェントを経て、現在バベルプレスにて版権業務を担当。

 

 

<< 2024年5月  >>

Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  

ブログテーマ