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黒田博子のWorld Publishers Report

フランクフルト・ブックフェアについて

投稿日時:2009/10/19(月) 16:40

世界のどこかで、毎月のように本の見本市、ブックフェアが開かれています。その中で歴史も長く主だったフェアとしては次の4つが挙げられるでしょう。(括弧内は2009年の開催日程)Bologna Children’s Book Fairボローニャ児童書展(3/23~26)The London Book Fairロンドン・ブックフェア(4/20~22)BookExpo America(BEA) ブックエキスポ・アメリカ(ニューヨーク)(5/28~31)、そしてFrankfurter Buchmesse フランクフルト:ブックフェア(10/14~18)です。アジアで開催されているものでは台北(2/4~9)、東京(7/9~12)、北京(9/3~7)があります。東京国際ブックフェアは今年16回目を迎えました。

 

これらの中でも最も大きいブックフェアがフランクフルト・ブックフェアです。世界百カ国以上の国から約7300社の団体が出展すると言われています。299,000人の来場者と10,000人以上のジャーナリストが参加し、本の祭典を町中で盛り上げます。

 

フランクフルト・ブックフェアの歴史は500年以上と古く、グーテンベルクがフランクフルトの近隣都市マインツで活版印刷を発明した直後に、地元の出版社が集まって始まったとされます。その後啓蒙主義の時代にライプチヒ・ブックフェアがより脚光を浴びることになって、フランクフルトは影を潜めますが、第二次大戦後の1949年に復活。以後はフランクフルト・ブックフェアが世界で最も影響力のある本の見本市として定着しました。

 

フランクフルト・ブックフェアは出版社、エージェント、書店員、図書館司書、著者、翻訳者、イラストレーター、研究者、印刷会社、映画プロデューサー、ソフトウェア、マルチメディア関連業務に携わる人等々、出版に関わる人たちが来場して情報交換をし、人脈を広げる絶好のチャンスです。会期は5日間で最初の3日は業界関係者のみの来場となり、残りの2日は一般のお客さんに開放されます。

 

会期中は著者インタビュー、セミナー、講演会など様々なイベントが会場のあちらこちらで開催され、その数は2600に上ると言われます。毎年テーマ国が設定されており、今年は中国です。ちなみに2010年はアルゼンチンで2011年がアイスランドの予定だそうです。フェアの開催時期がちょうどノーベル文学賞の発表と重なることが多く、その発表があると、受賞者の著作を出版した出版社ブースは大いに盛り上がり、また翻訳書を出した出版社も大喜びするという光景が見られます。

 

フランクフルト・ブックフェアの重要な目的のひとつは版権売買です。版権の中でも外国語翻訳権に焦点をあててみましょう。あなたが日本の出版社の編集者であると想定して。世界各国の出版社の版権担当(rights division)者が自分の社のブースに1日中座って、9時から6時まで30分刻みでアポイントメントをこなします。ブースにはその出版社から最近刊行された本がずらりと並び、これから出る本や著者のポスターが貼られます。版権担当者はアポイントメントに来た外国の出版社の編集者であるあなたに、自社で出した、あるいはこれから出る本の中で翻訳権が空いているものについて、その内容やセールスポイントを手短に(何しろ制限時間が30分未満ですから)説明します。あなたはそれを聞いて、あなたの出版社の出版傾向に合致したものや、探していたタイプの本があった場合、検討したい旨意思表示をします。版権担当者はそれをメモにとり、ブックフェア後に検討用の本を送ってくれます。

 

あなたが初めてその出版社の版権担当者に会うという場合は、自分の出版社の紹介をしなければなりません。その場合に役に立つのが書籍リストです。英語版の書籍目録があればベストですが、そのようなものを常時作成している出版社は少ないでしょう。そんな時はあなたの出版社が過去にどんな外国の本を翻訳して出しているかをリストアップしておきましょう。翻訳書の原著者名と原著作名のリストは、版権担当者にとってあなたの出版社について理解する上でのひとつの助けとなるのです。

 

勿論アポイントメントは情報交換の場にとどまるだけではなく、実際の版権交渉が行われ、その場で版権が売買されることもあります。出版社からの参加者が決定権をもっている場合、そしてこれなら自分の国でも出して売れる!と思える作品があった場合です。アドバンスが数万ドルから時には十万ドル以上もする版権が次々にフェアの場で売れるという時代もありました。最近は全体的に出版社も慎重に検討してから、フェア後にオファーを出すというケースの方が多いでしょう。

 

ブックフェアでより多くの外国書籍の情報を得ようとするならば、版権担当者とのアポイントメントを事前にとっておくことが必要となります。アメリカの出版関連に携わる人たちは6月後半ぐらいからアポイントメントを取り始めます。8月までに主だったところの担当者は既に予定がびっしり埋まっていて、夏の終わりごろに連絡をしても既に遅しということも起こります。

 

昨年のフランクフルト・ブックフェアは世界同時不況による金融不安が広がった直後に開催されたため、参加を見合わせる出版社やエージェントが多かったようです。今年はどんなブックフェアになるのでしょうか。再び活気が戻ってくることを期待したいと思います。

  

プロフィール 

黒田博子 

上智大学外国語学部英語学科卒業。University of California, Santa Cruzにおいて教育学修士号取得。翻訳権エージェントを経て、現在バベルプレスにて版権業務を担当。 

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